映画祭レポート⑧/スタジオ・プレゼンテーション MAPPA


左:林祐一郎氏、中央:大塚学氏、右:宍戸淳氏
 
映画祭最終日、特設会場最終プログラムを飾ったのはスタジオ・プレゼンテーション「MAPPA 〜圧倒的臨場感!MAPPAの創造力を語る〜」。『ユーリ!!! on ICE』や『この世界の片隅に』など、多数の話題作品を手掛けるスタジオ・株式会社MAPPAより代表取締役/プロデューサーの大塚学氏、アニメーション監督・アニメーション演出の宍戸淳氏、アニメーション監督・アニメーターの林祐一郎氏をお迎えし、制作背景についての特別レクチャープログラムが開催された。
 
 会場はプログラム開始時間の30分前には既に満席。立ち見客が列をなす中で、プログラムは終始笑い声があがるアットホームな雰囲気で始まった。
 
MAPPAとの馴れ初めについて、MAPPA初のタイトル制作である『坂道のアポロン』から関わることになった宍戸氏は、会社の第一印象として「なんと挑戦的な会社なのかと思った」という。トーク中、何度も「挑戦的で他の会社が踏み出さないようなことをやる」とMAPPAを表現していることから、その第一印象は未だに変わっていないように思われた。
 
一方林氏は、大塚氏より『牙狼』演出の誘いを受け、「もともとアニメーターとして、なかなか演出をやりたくてもやらせてもらえない中で声をかけてもらった」ことがきっかけとなり、『牙狼〈GARO〉‐炎の刻印‐』の監督としてMAPPAに参加。しかし来てみると社内にスペースが無く、暫くは「雑居ビルの一室に一人で3ヶ月通っていた。鍵をもらっていたから自分で出入りして、エアコンつけたり消したり、一人暮らししているようだった(笑)」とのこと。このエピソードから、会場からは思わず笑い声が出ていた。
 
『牙狼〈GARO〉‐炎の刻印‐』PV
  
設立当初は「狭いフロアにスタッフがすし詰め状態で周囲から心配の目を注がれ、それに加えて、“マッパ”という社名も聞いた相手が戸惑う。そんなところからのスタート」だった大塚氏は、「このイメージは作品を通して覆す」と決意して制作に取り組んできたのだという。
 
会社としての転機は2014年。「『残響のテロル』『神撃のバハムート』、『牙狼』をやっていく中で、業界内でイメージが出来上がっていった」という。設立当初より、制作現場も作品のスタイルも挑戦的でありつづけた結果として、今MAPPAは大ヒット作を生み出すスタジオの一つとなっている。
 
 その大ヒット作の一つとして、本映画祭でも爆音上映を行った『ユーリ!!! on ICE』がある。演出チーフとして本作に関わった宍戸氏は、そもそも演出チーフとは何なのか?という質問に、「何でもやっていた。(中略)山本(沙代)監督が仕事の物量が多くて手が回らないところで現場監督として、絵コンテを描きまくって、打ち合わせをしていました」という。現場監督は、監督の希望をすくい上げて現場に落とし込む作業を行う役割を担う。スケートマニアの山本監督が“これだけはやらせて!”とスケートパートを担当したのに対し、宍戸氏は「企画の段階でスケートをやりたいなと思って仕事を受けたはずが、日常シーンがメインだった(笑)」と、山本監督の熱いフィギュアスケート愛を披露し、会場からは笑い声があがった。
 
『ユーリ!!! on ICE』PV
 
林氏のED制作について、「山本監督が選手のオフショットを制作したいとのことで、実際の選手を参考資料にするため未経験のインスタグラムを教えてもらったりした」とまたしても山本監督のエピソードが。また、林氏自身は本編よりもEDに特化して制作したことから「本編とキャラクターに温度差が出ないように気をつけた。色気を全面に出すことにこだわり、勇利のラストの表情には力を入れた」と語った。
 

会場は立ち見客で溢れる盛況ぶり
 
 そしてもう一つの大ヒット作である、数々の賞を受賞した『この世界の片隅に』について、大塚氏は「『この世界の片隅に』は映画好きな方に届けられた。2011年の会社設立時から片渕須直監督とともにずっと作り続けていて、予算が集まらなかったりする中、社長をはじめスタッフの執念が実った貴重な経験になった。(中略)『ユーリ!!! on ICE』も『この世界の片隅に』も、企画段階ではこんなにヒットするとは思っていなかった。クリエイターの何を作りたいかを叶えるスタジオ、その姿勢からこういうヒットが生まれた」と語り、「次は狙って売れる作品も作りたい(笑)」と、プロデューサーとしての思いも笑いを誘いながら話した。
 
 『この世界の片隅に』予告編
 
 宍戸氏、林氏、山本氏は『ユーリ!!! on ICE』の後に放送された『賭ケグルイ』でも共に制作に参加。林氏は監督として、『ユーリ!!! on ICE』がヒットしている中での『賭ケグルイ』制作にはプレッシャーを感じていたことを吐露。EDの演出について宍戸氏は、「大塚さんから“助けて!”と電話がきて2週間で作った。MAPPAはいつも…あっ!」と言葉を詰まらせると、すかさず大塚氏が「今日はイメージアップをしないと(笑)」と制作現場が垣間見えるかのような会話が繰り広げられた。
 
 OPについては山本氏から「女体盛りでいきます!」と連絡を受けたという。その出来上がりを見た宍戸氏は「これぞ山本沙代!というような出来上がり。山本監督は天才、誰も想像しないものを作る」と大絶賛。そして山本氏が表現するエロスと逆の演出にしたいという林氏の要望に応えた、宍戸氏演出のEDを上映。女性客が多い中でのストレートなエロスの演出に、大塚氏は「ちょっと恥ずかしい…」と照れる一面も見せた。絵コンテの担当をした林氏は「ギャグなので!」と言い切り、演出の宍戸氏は「ファッションショーのランウェイを歩くような、80年代のディスコ風で、蛇喰が徐々に気持ち良くなって開放的になる感じで、と。これだけ聞いたらどうしたらいいか分からないでしょ?」と思わず客席に問いかけるほど、難しいオーダーを受けて出来上がったものだと話す。「ただ歩いているだけでも髪のアクションもあるので、作画が非常に大変」と制作過程の苦労も語った。
 
『賭ケグルイ』PV
 
 最後にMAPPAの今後について、林氏は「MAPPAはマニアックな作品が多いと思うけれど、まずは一話だけでも見てみて欲しい」と話し、宍戸氏は「挑戦的で守りに入らない攻めの姿勢がMAPPAという会社。誰も見たことのない作品を作っていくと思うので期待していてください」とスタジオの魅力を語った。大塚氏は「今後もかなりの数の作品を作っていく予定です。宍戸さん、林さんの監督作もまた作れたらと思っていますので」と、クリエイターを大切にしながらこれからも数多くの作品を届けてくれることを約束する頼もしいコメントで締めくくった。