アニメーションマスタークラス 黒坂圭太「ゆらめくかたち」

11月5日 16:05~ シアター2

日本を代表するアニメーション作家黒坂圭太。「物語」を語る長編『緑子/MIDORI-KO』に続く、巨匠の新たなステージを一挙に。「不定形」シリーズにこめた思いについてのトークも。

「いま私が探求しているのは「不定形」。それは抽象でも具象でもなく、観客の心理的状況によって、どちらにも変容しうる「かたち」なのです。ある人の目には風景や人物に映るかもしれないし、またある人は何らかの物語を読み取るかもしれません。さらには変化する「かたちの動き」そのものを見ようとする人もいることでしょう。皆様ご自身の脳内散歩を楽しんでいただければ嬉しいです。」(黒坂圭太)

上映作品

『陽気な風景たち』(2015年、25分)

2011年は私にとって初の長編アニメーション映画が公開された年だが、その一方で創作上のアイデンティティーが著しく揺らいだ時期でもあった。新たな目標への再出発は「描く行為の軌跡として現出する映像」の再検証から始まった。3年間に渡り「表現」の呪縛から逃れ本能の赴くままに描き溜めた膨大な鉛筆画を素材とした本作は、自己の記憶の再構築でもある。メッセージを声高に叫ぶ事なく観客自身の心象風景を呼び覚ます“触媒映画”を目指した。

『マチェーリカ/MATIERICA』(2016年、30分)

アニメーションの表現に於ける未踏の領域に挑んだ。美しい絵、魅力ある物語、華麗な動き、これらは優れたアニメーション映画に必要不可欠な“三要素”と思われがちである。しかしアニメーションの語源「アニマ」には周知のように「命を吹き込む」という意味がある。私は「命」とは「限りある時間」であり、前述の“三要素”を全く含まないアプローチもあり得ると考えた。数年間にわたる新しい手法の探求の結果、所謂「アニメーション的な」結構を排除した「微動アニメーション映画」が生まれた。本作では約5000枚の鉛筆画をたえずオーバーラップさせる撮影方法により「移り行く意識」の視覚化を目指している。

『山川景子は振り向かない』(2017年、10分)

私たちは現在より遥かに無垢で美しかった過去の風景を懐かしむ。私たちのそうした思いとは無関係に、山河の風景は自らの意思で絶え間なく永遠に変化し続ける。そして決して後戻りはしないのである。本作は数千枚の鉛筆画を素材としてもちいながら、このテーマを抽象的に表現している。

監督プロフィール

黒坂圭太

短編映画『変形作品第2番』(1984)でデビュー後、アニメーション表現を主軸として多様な創作活動を展開。アヌシー、オタワ等の国際アニメーション映画祭をはじめ国内外で多数受賞。鉛筆画による長編アニメーション映画『緑子/MIDORI-KO』(2010)が世界各地で上映。DIR EN GREYのミュージックビデオ『AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS』(2006)、『輪郭』(2012)を制作。現在は『マチェーリカ/MATIERICA』(2016)など一連の抽象アニメーション映画を創作。即興アニメーションや音楽家との描画ライブも行っている。武蔵野美術大学 映像学科 教授。

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