映画祭レポート④/『アグリー』の美学とインタラクティブアニメーション

左:通訳、右:ニキータ・ディアクル氏
 
 映画祭3日目。短編アニメーションのコンペティション部門での来場作家が自身の作品について講演を行う「メイキング・トーク」シリーズのうち、ニキータ・ディアクル氏による「『アグリー』の美学とインタラクティブ・アニメーション」をレポートする。
 
 ニキータ・ディアクル氏はドイツ在住の作家で、卒業制作の『Fly on the Window』が多数のアニメーション映画祭で上映された。
 

Fly on the Window from nikita diakur on Vimeo.

 
 『Ugly』制作のきっかけは、「一年以上アイデアを探して絶望しかかっていたところに見つけた、インスピレーションとなりうるような物語や引用を記載しているウェブサイトから発想を得て制作した。」と言う。「ストーリーは、醜い猫が劣悪な環境の中で暮らしていて、その環境もまた猫とは別の意味で醜い。アグリーな(醜い)ストーリーに映画のルックもアグリー(醜い)、というのが作品のコンセプト」。そして、「良い物や素敵なものではなく、おかしな映画を作ろうと思った。」と語る。
 

Ugly Trailer from nikita diakur on Vimeo.

 
 制作にあたっては、アグリー(醜い)なCGとは何かについて考えたという。意図せぬ誤差が含まれたCGと、意図したとおりの誤差を含んだCGの両方を示しつつ、「意図してアグリーであるようなCGをつくろうとした」と語る。ロシアのアニメーション作家のユーリー・ノルシュテインが、優秀な美術監督である奥さんに「あなたは絵がうますぎるから、左手で描いてくれ」と説いたエピソード例に挙げ、CGを制作する上でも、遊び心のある表現を用いることによって、醜さは時に美しさともなることを語った。
 
講演中の様子
 
 アニメーションは、コンピューターによる動的シミュレーションに人形遣いの原理を組み合わせることによって制作された。キャラクターはマリオネットのように部品が組み合わさったかたちでできており、それが周囲の環境に反応するようにしてシミュレーションされ、コントロールされる。このようなかたちで作られたアニメーションは俳優を使った実写映画制作と似て予期せぬ結果を生み出し、すべてが予期されたものよりも、現実的かつ繊細な感覚を与える。「制作する上でアクシデントや予期せぬことをコントロールすることで、一つの作品の中に醜さと美しさの両方を落としこむことができる」と語った。(編集局ボランティアスタッフ)