映画祭レポート⑤/アニメーションマスタークラス 黒坂圭太「ゆらめくかたち」

左:通訳、右:黒坂圭太氏
 
 映画祭最終日、多数のゲストを迎えたトークプログラムの最後を飾るのは、アニメーション作家であり本映画祭の短編アニメーション・コンペティションの国際審査員を務める黒坂圭太氏によるアニメーションマスタークラス「黒坂圭太『ゆらめくかたち』」。黒坂氏はまた、本映画祭にてミュージックアニメーションコンペティション部門特別審査員やワークショップ「てんさい!黒坂先生とお絵かきウォーズ」にも参加、全期間通して活躍した。このプログラムも、会場は満席の熱気あふれる空間となった。
 
 黒坂圭太氏は、鉛筆画による長編アニメーション映画『緑子/MIDORIKO』などで国内外から高い評価を受けるなど、長年にわたって活躍しているが、本プログラムでは、2015年以降に制作した短編アニメーション『陽気な風景』、『マチェーリカ』、『山川景子は振り向かない』3作品の上映とトークが実施された。
 

 
 3作品ともに、メッセージを声高に叫ぶことなく、鑑賞している人の心象風景を呼び覚ます「不定形」の作品である。「アニメーションの語源の“アニマ”には命を吹き込むという意味がある。命を「限りある時間」と考えることで、それを表現するために、美しい絵、魅力ある物語、華麗な動きといったアニメーション必須の三要素を含まない、別の方向からのアプローチもありうると考えて制作した」と述べ、「私たちが過去の風景を懐かしいと感じるのは身勝手な干渉にすぎず、山や川は自らの意思で動き、絶え間なく変化し続けている。そして、決して後戻りはしない」と語った。
 
『山川景子は振り向かない』作品画像
 
 また、自身の紹介として、過去作品をダイジェスト形式で上映。「はじめから今回のようなスタイルではなかった」という。「東日本大震災直後、表現者としての無力感に打ちひしがれ、使命感と絶望感の間で手も足も出ない状態になり、表現者として生きるべき理由が見いだせなくなっていた。(略)いくら探しても描くべき主題が見つからず、ほとんど鬱状態になっていた。何も考えず、やけくそのように鉛筆をもって、無意味に紙を汚し続けるという非生産的な行為を始めた。すると不思議なことに、今までの無気力感がなくなってどんどん描けるようになったのに驚いた。」と述べた。その自動筆記のような行為を3年間続けた結果、今回のような新しいアニメーションのスタイルが生まれた。「白い紙に無意識に引かれた線たちが、僕に新しい道を示してくれた。アニメーション映画を作り始めて30年以上たってようやく自分の言語を発見した気持ちです。」と力強く語っていた。(編集局ボランティアスタッフ)
 
左:通訳、右:黒坂圭太氏